一日目 折立キャンプで飲んだくれ
全登山客が大雨に泣いた、2025年の夏休み
みんな大好き夏休み。
たいていの大人達は、仕事をはじめとした、様々な首輪につながれています。
しかし夏休みには、不自由な日常から一時的に釈放され、夏の青空を見上げながら胸いっぱいに山の空気を吸い込み、金太郎あめみたいな日常の繰り返しから離れられる・・・そんな人達で山は溢れます。
今年はあこがれの北アルプスに行こう!
なんて思いながら、何か月も前から予定を立てて、ワクワクしていることでしょう。
そして、なけなしの時間と金をはたいて、北海道から沖縄までどころか、時には海さえも越えて、やってくるのです。
ところが2025年、多くの人の貴重な夏休みは、非情にも、大雨によって蹂躙されました。
一例を挙げれば、上高地への道は8/10の19時から8/13の5時半まで閉鎖されることになり、通常ならばテントでにぎわうはずの涸沢カールもガラガラ。
年間で最大の書き入れ時であるはずのお盆シーズンはキャンセルで大ダメージという、山小屋にとっても登山客にとっても、悲しい夏休みとなりました。
天候による予定変更は得意技
我々は8/13~8/16の三泊四日で、岩井谷を遡行する予定でいました。
岩井谷とは、折立の登山口からさらに林道を数キロ進んだ先に入渓点がある常願寺川水系の沢で、薬師峠のテント場へと詰め上がる沢です。
2年前に遡行した時は、あまりの美しさに負けて序盤で幕営したせいで、予約していた薬師沢小屋への到着が遅くなり、けいこ(薬師沢小屋支配人・私の嫁)に叱られたのもいい思い出です。
我が家のキッチンで燕山荘のエプロンを身に着けるけいこ(2025年1月)

しかし今回は大雨のため、周辺の川はどこも増水して濁流となっていたので、予定変更せざるを得ません。
とはいえ、どこへ行ったとて今日は雨。
仕方なく、初日は折立キャンプ場で過ごし、赤木沢を遡行することとしました。
というのも、この時期は通常なら予約でいっぱいの薬師沢小屋が、天候のせいでキャンセルが出たようで、翌日の予約が取れたからです。
やった!けいこに会える!

折立でローストビーフ
ここで一泊目を過ごすなら、あんなに朝早くに出てくる必要もなかったな、という思いは酒とともに飲み込みます。

もうしょうがないので、本当なら岩井谷で食べるはずだった物たちで宴会です。
T青年はローストビーフを仕込んできました。
君、全然料理しない人だったよね???

こんがりと表面を焼き付けます。
ローストビーフを作る際は、表面を焼いてから保温する方法もあれば、低温調理で中までほんのり火を通した後に、表面を香ばしく焼く方法もあります。
今回どっちだったか忘れましたが、何しろ工夫次第で、限られた調理器具でも様々な料理ができるのです。

焼き上げたローストビーフをカット。

スライスされたローストビーフにベビーリーフがトッピングされ、バルサミコ酢もかけられました。

本当なら岩井谷のあの場所で、食べるはずだったのですが。
しかし、たとえ雨で予定が変わろうとも楽しめるスキルは、特技として履歴書に書けますね。
↓ここで一泊目のはずだった(2023年訪問時)

いつも寝不足Nおじさん、今回は、二度死にました。
お疲れ様。
あなたの仕事のおかげで、安心して車を運転できる人がたくさんいますよ。

二日目 薬師沢小屋へ
味噌汁が美味い、折立の朝
料理なんてしなかったT青年は、立派な味噌汁担当になりました。
今日も皆のためにネギを刻みます。

赤だしが美味い。
年齢とともに朝の味噌汁がしみじみと美味しく感じると、満場一致で意見が合いました。

太郎でカレーかラーメンか
今日は薬師沢小屋まで歩くわけですが、登山道から見える沢を、指をくわえて眺めながらの登りです。

ぐずついた天気でも、やはりこの登山道からの景色は相変わらず美しい。

綿毛になったチングルマたち。
花盛りの時期に来ようと毎年思うのに、夏が来ると沢にまっしぐらで、いつの間にやら綿毛になってしまうばかりです。

折立から歩くこと約4時間、太郎平小屋が見えて気ました。

太郎平は一大ターミナル。
山の大都会です。

11時から14時はランチを楽しめますし、売店では生ビール(1,300円)も提供されています。
ちなみに約1か月後に訪れた際は、生ビール1,000円キャンペーンとなっており(余ったのでしょう)、ノンアルのビールやレモンサワーは売り切れていました。
世の中のニーズを把握しきれていないのは、相変わらず(笑)
ラーメンと太郎ラーメンの違いは、行者ニンニクが乗っているかどうかです。
ちなみに申し訳程度の量しか乗っていません。

カレーで元気とエネルギーを補給。
ごく普通のカレーですが、あたたかい食事をいただけるのはありがたいです。
週末はネパールカレーも食べられるらしい。

太郎から薬師へのくだり
エネルギーチャージと水汲みとトイレを済ませたら、薬師沢へと下り始めます。
けいこと黒部に魅入られてからというもの、薬師岳方面に行く機会が激減です。
薬師岳山荘も大好きなのですが、沢とけいこの魅力にはあらがえません。

池塘越しに見る薬師岳が美しいのは、いつものこと。
とはいえ、ガスに隠れがちなので、見られたらラッキーぐらいに思っておきましょう。

薬師沢小屋へは、このような橋を三か所(小さいのを含めればもっと)渡っていきます。
沢をやる前までは、橋から降りることなんて考えもしなかったし、沢は障害物でしかなかったのに、今や沢ばかりたどっています。

夏の暑さを沢水で洗い流す。
地図上にこの水場は書かれていませんが、いつも涼を楽しめるスポットとして活用しています。
たまに、涸れています。

アップダウンを繰り返しつつ2時間程度歩くと、黒部の流れがきこえてきます。
その水音に誘われて、毎度毎度、ついつい駆け出してしまい、そして黒部の流れがチラ見えする場所まで来て、胸キュンするのです。
はぁー、いつも変わらずきれいだな。

そして赤い屋根が見えると、けいこはそこだ!!!と超ハイテンション。
いつかコケて、顔面から流血しそうです。

薬師沢小屋前にて、乾杯と釣りと
到着して乾杯したら、まずは小屋前で一投。

なんと、さっそくゲット!!!
この日は爆釣モードだったらしく、他の釣り師たちも「釣り堀状態」と言っていました。
これが食べるための釣行だったら、最高だったんだけどなー。

でもかわいいイワナちゃんと遊べたので、満足です。
この子はベンジャミンと名付けられました。
なおこの写真のベンジャミンは、ちゃんと水の中にいます。
水がないみたいに見える、素晴らしい水の清らかさですね。

そして定番の宴会。
今夜は小屋食があるので、おつまみは控えめに。
しょうがと味噌があるあたりが、渋い。

夕食の後は、定番の皿洗いです。
太郎グループの小屋の中でも、薬師沢小屋はスタッフと宿泊客のレイシオが過酷ではないかと思うのですが、けいこは常連をうまく使うことで状況を打破しています。

薬師沢小屋の夜は、けいこと共に
楽しい夜は更けていく。
と言っても消灯は20時ですから、さほど夜更かしはできません。

しかし消灯後でも、小屋前のテラスなら飲める。
なんか若者ぶったポージングを、酔った勢いでやってみる二人。

けいこと一緒に真似してみるも、1974年生まれコンビだと、
「あ?なんだって???」
って言っているようにしか見えないんだな。
まあ、でも、年を取るのも、楽しい仲間がいると悪くない。

三日目 赤木沢遡行
薬師沢小屋~赤木沢出合
薬師沢小屋から、黒部本流を上流に向かって遡行し始めます。
毎度のことながら、早朝の沢に入るのはイヤだなーという思いはあります。
水が冷たいんですもの。

小屋前のテラスにあるはしごから、沢に降ります。

うー、水が冷たい。
ひー!とか言いつつ水に入りますが、そのうちに結構慣れてくるものです。

黒部源流は、なんとも言えない美しさがあると思います。
もちろんこれは、個人の思い入れによる部分があるのですが、それにしても美しさがレベチではないかと。

どんな宝石の輝きよりも、美しい。

赤木沢の出合いに到着。
出合いまで来ると、ナイアガラと呼ばれている特徴的な滝があるので、すぐ分かります。
この滝の手前、右側にある支流が赤木沢です。

薬師沢小屋からこの出合いまで、水量にも左右されますが、この日は3時間近くかかりました。
今回は3度目の訪問ですが、渡渉しながら高巻きなしで行けた時もあれば、左岸のみで高巻きしつつ行った時もあります。
渡渉や、高巻きからの懸垂下降で、ロープを出したこともありましたので、装備は抜かりなく整えましょう。
赤木沢入渓~赤木沢大滝
今回は、へつって赤木沢へと入れました。
泳いだり胸まで水に浸かったりもしますし、前回の時は腰まで浸かって歩いたような?
なにしろ、状況に応じて突入方法は変えます。

赤木沢に入ると、まずこの輝きを目にします。

独特な色合いの沢床を流れるエメラルドグリーンの沢!
初めて見た時は、あまりの感動で、文字通りぶっ倒れました。
しかし三度目ともなると、あの時のような感動はなく・・・初めての感動は、記録しておきたいものだと思いました。

赤木沢には、程よい大きさで、しかも登れる滝がたくさんあります。
こちらは赤木沢に入って間もなく現れる、2段15mの滝。
右側がいかにも登りやすそうですが、その通りで、右側(左岸)から登れます。

クライミングが苦手なNおじさんも、水があれば調子が出る。

大人が水遊びするのに、うってつけですよね。

ど真ん中を登りたくなる感じですが、どこからでも登れそうな滝。
こちらは2025年の、若干曇っている様子。

こちらは同じ滝の、晴れている2023年。
水量や晴れ具合で、別人ならぬ別滝のようです。

とにかく水がきれいです。
たいてい源流はきれいなのですが、この界隈は格別に思えてしまう。

もはや、どれを巻いてどれを直登したか分かりませんが、巻く場合も踏み跡は明瞭です。

赤木沢に入ってからは、ロープを出すような場所もなく、大滝まで遡行が可能でしょう。

赤木沢最大の、赤木沢大滝2段35mです。
写真のほぼ中央部あたりの左岸にピンクテープがあり、そこから巻きますが、ほぼ垂直に上がっていくため、Nおじさんはロープを欲しがります。
木の根が豊富で手がかりが多いので、よほど高い所が苦手でなければ、フリーで登れるでしょう。
もっと手前から巻く道もあるようですが、そちらは通ったことがなく、どこから入るのかは知りません。

巻きの途中から大滝を望む。

詰め上がり~薬師峠
大滝を越えると、より源流の雰囲気が増してきます。

水流も少なくなり、背後の景色も見晴らしがよくなります。

もはや小川のせせらぎになり、いずれは流れも消えてしまいます。

沢を登りつめた先は、天国のような草原とお花畑。
通常であれば立ち入れないような場所に入れるのも、沢登りの醍醐味。

とは言っても、ハイマツのヤブ漕ぎをすることもあり。
そんなにうまいこと、ハイマツを避けて上がってこられませんよ。
遠くから見ていると「あのラインで登山道に上がればいいな」と思えますが、近くまで来ると壁のように立ちふさがっているので、先を見通せません。

強行突破でヤブを抜けてきた結果の、Nおじさんの腕。
私は傷を作ることもなく、うまいことすり抜けてきました。
もしかしたら、ヤブ漕ぎが得意なのかもしれません。
履歴書の特技欄に書けることが、またひとつ増えました。

赤木沢の詰めから太郎平に向かって歩き、薬師峠で幕営します。
登山道にたどり着いてからの歩きが、景色はとてもきれいなのですが、何しろ長くて疲れました。
「私、きれいでしょ?」
がしつこい登山道でした。
夏の薬師峠の混雑を侮るべからず
案の定、夏休みの薬師峠はテントでいっぱい。
快適な場所には張れないだろうと覚悟していましたが、なかなかの混雑具合です。

どうにかこうにか隙間を見つけてテントを設営し、はぁー、疲れたと乾杯。
山に入って三日目なので、もう生ものはダメになっているので、高野豆腐を煮ました。

虫よけもぬかりなく。
夕暮れ時のテント場。
沢の中なら、暗くなっても灯りをともしながら宴会を続けるところですが、普通のテント場だとロープも張れないし色々不自由です。
というわけで、さっさと寝ました。

今日という日も終わり、明日は夏休みの最終日。
切ない夕焼けです。

スマホだとこの程度にしか撮れませんが、実際は満天の星空。
星空と言うよりも、「宇宙」を実感します。

四日目 後ろ髪を引かれながら下山するだけ
もう今日は下山か・・・との思いを胸に秘めつつ、朝ごはん。

天気が良いのがせめてもの慰めです。
今年の夏休みもこれで終わり。
また来年、元気に来られることを祈りつつ、帰路に着きました。

