釣りの師匠はガチの釣り〇チ
釣りキ〇エピソード
渓流釣りをやってみたいと思った私にイロハを教えてくれた、通称「まさやん」。
職業も職人ならこだわりも職人の彼は、幼少期から釣りに命を燃やしてきたようです。
小学生の頃から自分で毛鉤を巻いていたのも結構なガチなのですが、その毛鉤をみた大人が、
「すごい、上手だね!」
と、当然のように思える驚嘆と称賛の意を示しても、ちっとも喜ばないこの少年が思っていたこととは・・・!!!
「だってあのおじさん、釣りやらないじゃん」
そう。
釣りをやらない人からの毛鉤の評価など、クソの意味も持たない。
そんなガチ釣り〇チ師匠は、小学生のころから筋金入りだったのでした。
今回の師匠のロッドとランディングネット



師匠の指導で初めてヤマメを釣った日
沢登りをしていると、流れの中を雷霆の如く泳ぎ去るイワナの姿を目にします。
そんなイワナを釣って、沢のハイライトである焚火で塩焼きにし、一杯飲りたいと思い始めたあの頃。
そういえば、まさやんは釣りが好きだったよなと思い、教えを乞うた奥多摩の日原川で、初めて釣ったヤマメの美しさは忘れられません。
その時はミャク釣りで、「今食うよ!」と言った瞬間に本当に食ってきた驚きと、水面からはじけ出るヤマメのきらめきに、圧倒されました。
食ってくるタイミングを予言する、釣り師Sugeeeeeee!!!と強烈に思いました。
日原川はアクセスがいい分、釣り人が多くて魚がすれっからしです。
「アタイ、ミミズなんて食わねーし」
とか言ってそうです。
そんな場所で、初めて渓流釣りをする私に、釣れるはずはなかろうと思っていたまさやんでしたが、先生がいいと違うものですね。
正直驚いた、釣れるとは思わなかったと言われました。
初めて釣ったヤマメ 美味しく頂きました



薬師沢への道のり
拠点となる薬師沢小屋紹介
渓流釣り好きであれば、南アルプスの両俣小屋と、北アルプスの薬師沢小屋が、真っ先に思いつくのではないでしょうか。
その北アルプス、薬師沢小屋は、黒部の本流と薬師沢の出合いにあり、支配人はイラストレーターとして活躍している、やまとけいこさんです。
けいこと私は同じ年で、なんだか気が合い、互いの家を行き来するようなマブダチとなりました。
アクセスは、折立登山口からコースタイムで6時間ちょっと。谷間にあるため、携帯の電波は入りません。
ランチや軽食などの提供はありませんが、水は無料で汲み放題です。立ちよりの場合、トイレは100円で利用可能。お弁当は、ちまき3個です(2025年現在)。携帯の充電は200円(要充電器)。
宿泊予約はウェブから可能です。





そしてこの小屋は、軽くめまいがするぐらい、傾いています。


登山口の駐車場情報
薬師沢小屋へ行くには、折立から太郎平を経由して、休憩時間を除いて6時間ちょっとかかります。
なお、折立の駐車場は大変な激戦区で、お盆の時期はとんでもない場所に臨時駐車場が設けられていました。
本来の駐車場はここ
とんでもねぇ臨時駐車場の位置
こんな、べらぼうに遠い臨時駐車場でも、お盆の時はズラーッと車が停まっていましたので、ハイシーズンの折立はとんでもない場所です。
なお、折立へは有峰林道を経由する必要がありますが、通行料金は普通車で2,000円(2025年時点)。
有峰林道エリアへ入る時に料金を支払い(ETCやクレジット決済などはない)、出る時はそのままスルーでOKです。
朝6時~夜8時までしか林道入口のゲートを通れないので、夜通し運転して早朝から登るということはできません。
また、悪天候で通行止めになることもよくあるので、ありみネットで確認しましょう。
↓ありみネット
https://www.arimine.net/toll_road.html


前泊なら折立キャンプ場
夏の土日やお盆に来るなら、初日は駐車場確保でつぶれることを覚悟し、折立キャンプ場で幕営もよいかと。
ハイシーズン中は電柵で囲まれており、安心して泊まれます。
料金は無料、携帯の電波は入る、焚火不可、水は要持ち込み(沸かせば飲めるけど、そもそも蛇口から水が出るかがあやしい)、トイレあり(紙あり)です。
なお熊の気配が濃厚で、数々の被害が発生しています。油断めされぬよう。



登山口~太郎平小屋~薬師沢小屋
折立の登山口から太郎平小屋までは、約4時間の行程。
行程の大部分が見晴らしのよい稜線で、木道や階段が整備された部分も多く、大変歩きやすくて眺めの良いルートです。
今回は小屋泊の軽い荷物で歩くはずだったのに、けいこ達に頼まれた買い物が、まあまあ重い。
何が食べたい?と聞いたら、フルーツグラノーラ、ズッキーニ、ゴーヤ、クリームチーズと、意外なリクエストでした。
スイカって言われなくてよかった。

このルートでは、有峰湖の方が晴れていても、薬師岳方面はガスに包まれていることが多いですが、天気が非常によくて剱岳が見えました。
さては師匠、行いが良いな!?

太郎平小屋のランチ提供時間は11時~14時。
秋になると売り切れが目立ち始めるので、アテにしすぎると痛い目を見ます。
スタッフは国際色豊かで、西洋から来たであろうお姉さんが
「Tarou ゥラァーメン 12バンノオキャクサマァ オマタセシマシタァ」
と言うのが、なんだか面白い。

太郎で休憩したら、薬師沢方面へ!
けいこにもうすぐ会える!

薬師沢小屋へ下る途中、3ヶ所の橋を渡りますので、暑い日はバシャバシャやって涼みましょう。

太郎から歩くこと2時間、変わらず美しい黒部の流れが眼下に。
薬師沢小屋の赤い屋根も、すぐそこです。

小屋に着いたらお土産を渡し、受付を済ませたら河原へ直行!!!

黒部で酒を冷やして乾杯。
宝石が液体になったらかくもあらん、という翡翠色の流れを、矢のように泳ぐ、これまた宝石のようなきらめくイワナたち。
ここには私が望む、全てのものがある気がするという、満足感と幸福に満たされます。



さっそく師匠が竿を出す。今回の師匠はフライフィッシングです。

なんとさっそくゲット!!!
小屋のすぐ前は、フライやルアーに見向きもしないやつらばかりなのに。
けいこも、この場所で釣れるなんてさすがです、と言っていました。

渓流魚って、何とも言えない美しさがあるし、またかわいい顔をしているんですよね。
見てよし、釣ってよし、食べてよし。

けいこの画を見て、消灯後にお外で一緒に一杯やって、明日は薬師沢を釣り上がります。

薬師沢を釣り上がる
薬師沢の情報
今回は薬師沢から第三渡渉点までを釣り上がります。
軌跡はYAMAPより。
滝や高巻きもなく、ロープもハーネスも不要な沢です。
高低差も100m程度、距離はぐるっと一周して小屋に戻るまで4.4㎞と大変コンパクトですが、ポイントは豊富で、じっくり探って釣り上がるとたっぷり一日遊べます。
靴はフェルトの方が適している場合が多いようですが、増水直後であればコケが洗い流されて、ラバーでも問題なし。
道に迷うようなポイントもないでしょう。

釣行開始
水温が低いため、朝は9時ごろからイワナの活性が上がってくると言いますが、結局待ちきれずに7時半ごろにはスタート。
小屋のすぐ近くに、こんな淵があります。
泳ぐのにもピッタリ。


このスプレーすごくいい!
師匠が持ってきたスプレーですが、このおかげで毛鉤がきっちり浮いて、はっきり目で追えました。
そして間もなくイワナをゲット!
これまではミャク釣りだったので、テンカラで釣ったのはこれが初めてです。
いやー、ちょーーたのしーーー!!!!

師匠もフライでどんどん釣りあげます。

小学生のころから黒部源流にあこがれて、そこで釣るのが夢だったという師匠。
そんな師匠の、今回のYAMAPの記録はこちらです。
「忘れなければ何時でも心はその場所に行ける!」
名言だ。
夏の思い出 / まさやんさんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
二人とも、着々と釣果を伸ばします。


釣り上げたイワナちゃんたち。
最終的に何匹釣れたのか、よくわからなくなりました。
ちなみに今回は、全部逃がしています。
焚火が出来れば、じっくり塩焼きにしたいんですけどね。
命拾いしたな!








キベリタテハが私の腕でお休み中。
なんと平和な世界なんだ・・・。
毛の一本一本の流れまで観察できるような距離です。
あれ?そんなに細かい所まで見えるなんて、黒部源流に来たら老眼が治るのかな?

こんなにきれいな沢で、太陽がさんさんと輝く中、ただただイワナと遊ぶ。
イワナにしてみたら、たまったもんではないでしょうが、これはやめられれないなぁ。

このルート最後の大きな釜。
水量が少なめでしたが、去年はここからルアーで狙うのが面白かったです。

去年(2024年)の記録はこちらから。
夢中で釣っていると、道のりの半分も来ていないのに時刻は13時を回っていました。
名残惜しいけど竿をしまって、第三渡渉点の橋まで遡行。
小屋に戻って開口一番、けいこに向かって、
「釣れた(*^^)v」

薬師峠のクマ騒動
受付前でけいことあれこれしゃべっている傍ら、太郎からの無線が聞こえてきます。
どうやら薬師峠のテント場(太郎平小屋から徒歩20分程度)にクマが出たようで、登山者を避難させるかどうかなどの、緊張したやり取りがされていました。
このエリアはクマに出会う確率が非常に高く、私の体感では50%以上の確率でクマを見かけています。
つい先週も薬師沢を訪れましたが、その際にも登山道のすぐ脇にクマがいて、こちらに興味津々のご様子だったので、同一熊物かなぁなんて思いつつ、
「とうとうテント場の近くにまで出るようになっちゃったね」
「ほんと、年々図々しくなってくるよね」
と、けいこと呑気に話していたら、なんとクマはテント場の登山客の食糧を食べてしまったとのこと。
これはまずい、と一気に緊張が走ります。
こうなってしまうと、クマは
「あそこに行けば人間が美味しいものを持っていて、何の抵抗もしてこない」
と学習してしまいます。
そんな、互いの距離感を見失った関係の行きつく先は・・・。
この日はテント場の登山客を全員太郎平小屋前に避難させ、小屋前にテントを設営することになったようです。
翌日以降テント場は臨時閉鎖となり、知らずに来た人は小屋前にテントを設営してもらうという措置が取られましたが、結局今シーズンは8月末をもってテント泊完全終了とされてしまいました。
薬師沢小屋~下山
毎度のことながら、いつだって下山は後ろ髪を引かれるもの。
翌日の仕事を思うと、足取りはオスミウムのように重い。
しかし、荷物からお土産がなくなった分、体力的にはラクになるなと思ったのも束の間。
けいこから、太郎への荷揚げを依頼されました。
8月12日の大増水の時に、小屋に逃げ込んできた人の荷物を沢から回収した物ということで、衣類、マット、ジェットボイルなどを託されました。
これらは後に山岳警備隊が下界まで運び、持ち主の元へ戻っていくそうな。
持ち主の方も、まさかこうして運ばれているとは思いもしないでしょう。
持ちつ持たれつですね。

来月もまた来るよと約束して、けいこと師匠とで記念撮影。

帰り道、オコジョに出会いました。
画面中央の、やや左寄りに、木材の間から顔を出しています。
天気良し、イワナ良し、クマ騒動あり、オコジョにまで出会うという盛りだくさんな釣行、さては師匠は行いが良いな!?

辛い帰り道をなぐさめてくれる、この景色。
もう何度見たことかしれません。

太郎平小屋前にテントがあるという、レアな風景。
人的被害がなくて、何よりでした。

売店には五十嶋さん(太郎グループのオーナー)がいましたので、けいこから託された荷物を渡しました。
「重いのに、ありがとうね~」
と言ってくれまして、ついでにカップラーメン(600円)とノンアルレモンサワー(500円)を買いました。

折立~太郎間は、やはり薬師岳方面がガスりがち。
私の心は、もっとガッスガスに曇ってるよ。

師匠が突然、
「これ!これがムネアカオオアリ!」
と地面を指し示します。
薬師沢で釣った時の毛鉤は師匠が巻いたもので、このアリを再現した胸の赤い毛鉤でした。
名付けてありんこパラシュートと、言っていました。

毛鉤の巻き方や素材の羽根のことなど話しつつ、登山口まで戻ってきました。

折立と言えば、かつては一念発起して来るような遠い場所だったのに、気付けば最も頻繁に訪れる山域になってしまいました。
黒部源流は、なぜこれほどまでに私の心をとらえて離さないのか分かりませんが、恋する気持ちが盲目なのと同じようなものかもしれません。