五竜のイグルーで吹雪とラッセル祭り

イグルー泊は年中行事

イグルーとは、雪のブロックをドーム状に積んで作る、かまくらのようなものです。
イグルーにせよかまくらにせよ、雪で出来たシェルターは高い断熱性のおかげでテントよりも暖かく、また作るのも泊まるのも楽しいため、毎年どこかしらでイグルーを作って遊んでいます。

登山道の向こう側

目次 1 遠見尾根は雪洞泊のメッカ2 待ち合わせを一週間間違えた3 イグルーって、どうなの?4 イグルーは最高の宴会場5…

今年も五竜遠見尾根でイグルー泊

五竜の遠見尾根は雪の量がふんだんにあり、かつアクセスが良く、雪洞泊やイグルー泊にもってこいです。
また、五竜の武田菱や鹿島槍の立派な姿を眺められるというロケーションも、素晴らしい。

国道148号を北上していくと、3月中旬というのに道路は圧雪でつるっつるです。
ラストコンビニはセブンイレブン白馬神城店で、そこから見た景色がこちら。

このセブンイレブンまで来れば、目的地はもうすぐそこ。
この時点で、外気温はマイナス8度でした。

登山者は直接この「とおみ駅」まで向かいましょう。
チケットはこの駅で購入し、まずはゴンドラに乗ります。

ゴンドラからリフトを乗り継いで、標高を稼ぎましょう。
ゴンドラを降りたら右側の出口から出ると、レストランアルプス360の入り口前で、眼下に乗るべきリフト乗り場が見えるはずです。
スキーやスノボで滑ってくる人に気を付けながら、少々徒歩で斜面を降り、リフト乗り場へ向かいます。

リフトを降りたら少し脇へ移動して、アイゼンを装着しましょう。

この周辺には、これから登山へ向かう人や、スキーやスノボを楽しむ人たちがたくさんいます。
これからまさに滑降しようとしていたカップルが、「どっちから滑るのかなー」とあたりを見回していました。

カップル 「あのー、どっちから滑るか分かります?」
Nおじ  「あー、ごめんなさい。私、滑らないんですよ。」
里美   「会社じゃいつもスベってるんですけどね。」
カップル 「www」

歩き始めからラッセルで苦しい

この日は新雪が深く、リフトを降りた場所から入山口までの間ですら、ラッセルとなりました。
フカフカの新雪をかきわけながら進むのは、尋常ではなく体力と時間を奪われます。
この見慣れた看板から遠見尾根へと進むのですが、いつもなら楽に歩いてこられるのに、のっけからフーフー言いながら歩くことになりました。

しかし青空と銀世界の美しさに、日頃のストレスも雲散霧消!
ラッセルはしんどいけど!

高度を上げていくにつれ美しい山並みが見渡せるようになりますが、太ももぐらいまでのラッセルが続き、汗だくです。

しかしここで救世主現る。
どこかの大学の山岳部チーム(10人ぐらいだったか?)が登ってきて、若い力でガシガシとラッセル先行し、道を拓いてくれました。
我々はその後ろを、ラクして歩いて行くわけです。

ずるいと思いますよね?
はい、ずるいのです。

これを「ラッセル泥棒」と言います。

この日は我々の他にも、青空にさそわれたのか、多数の泥棒が出現しておりました。

五竜と言えば、やっぱりこの武田菱。
山頂のやや右下あたりが、武田家の家紋のように見えるのです。

ラッセル(泥棒してるくせに)に時間がかかるので、いつもの幕営地に全然近づくことができていません。
我々のつたない建築技術では、イグルー着工から完成まで2時間程度を見込まねばならず、このペースでは無理があるでしょう。

というわけで、早めに適地を見つけて着工することとします。
幕営地に着いたら一番先にしなければならないことを、まず済ませましょう。

イグルーは適切な大きさで作るべし

イグルー建築に欠かせないスノーソーですが、なんと3人とも同じ「モチヅキスノーソー」。
やっぱり安定の使いやすさ、というわけですね。

このスノーソーは、 Don’t cut yellow snow と刻まれています。
黄色い雪・・・察してください。

モチヅキ スノーソー 雪用のこぎり 日本製 TEPPA CRAFT GEAR てっぱ クラフトギア 12102

まずはイグルーの大きさを決めます。
ここでつい欲張って、大きな円を描いてしまうと、後で大変です。
そう分かっているはずなのに、今回もまた大きな円を描いてしまい、後でちゃんと大変な目に遭いました。

出来るだけ固く締まった雪面からブロックを切り出して、積み上げていきます。
作り方のコツは、YouTubeに色々とアップされていますので、興味がある方は検索してみるとよいでしょう。
雪中での作業は、防寒テムレスが便利です。何しろ安いし。
また雪山ではグローブは複数持っておくべきで、作業用と行動用は別にしておきましょう。

しかし予習もろくすっぽしてこなかった我々は、うまく屋根を作ることができず、途中で面倒くさくなってゴージュタープで天井をふさいでしまいました。
そういう横着をするから、後で痛い目見るんです。

入り口をツェルトでふさいで、とりあえず完成。
ツェルトもファイントラックで、やたらとファイントラック推しのイグルー(未満)になりました。

労働を終え、一服する二人。
汗もたっぷりかいたし、いやー、ビールが怖いなー(饅頭怖い的な)。

欲張っただけあって、内部はかなりの広さです。

玄関からの眺めも美しい、豪邸の完成です。

イグルーは素敵な宴会場

何時間も運転して、何時間も歩いて、何時間も工事して、ようやく乾杯なのです。
そんな一杯が、美味しくないはずがありません。
なんなんですかね、あの言葉にならない美味さは。

そしてまずはジンギスカン。
長野県は北海道に次ぐ、ジンギスカン大国だとか。
ジンギスカン街道というところもあるほどです。
スーパーで必ず売られているし、街のお肉屋さんでもお店ごとの味付けがされたジンギスカンが売られています。
総じて味付けは、ありんこが寄ってくるほど甘めです。

イグルーの中なら油ハネもニオイも気にせず、ジュージューやれちゃいます。
この後、せせりも焼きました。


大変おくつろぎのご様子。
エアーマットが座椅子に早変わりするアイテムです。
私も持っていますが、これを担ぎ上げるならビールを1本余分に持って行きたくて、いまだ使っていません。

イグルー内はこの通り、3人が余裕でくつろげる広さです。
これで天井がちゃんとしていたら、後で泣きを見ることもなかったのですが。

Nおじさんがアボカドを持ってきてくれました。
いいオリーブオイルと塩で頂くと、爽やかな青臭さがクセになる美味しさ。

飲んでる間に夕焼けが終わりがちですが、今日は夕焼け鑑賞を忘れなかった!

夕日に向かって歩く様子が画になる。

でも実は、ウ〇コしに行ってるだけ。
ブツは持ち帰りましょうね。
モンベルのアウトドアトイレキットが、使いやすくてニオイも漏れず、おすすめです。
どんな山行にも必ずひとつは持参し、車にも常備しています。

イチャイチャしてんじゃねーよ。

新潟方面の山並みが、日没間際の光の中に浮かんでいます。
あの稜線を、どこまでもつないで歩いていきたい。

山の中で日が暮れていく、その時間が好きです。
知識や経験、準備があるからこそ、心穏やかに夕陽を見ていられるなと、かつて恐怖した日没金峰山のことを思い出すのです。

登山道の向こう側

インドア派だった私が山にハマったきっかけ。楽しいだけじゃなくて、危険で辛いからこそ魅了される。…


以前の自分では見られなかった景色を見られるようになるのが、出来ることが増えた証のようでうれしいということも、登山の楽しみのひとつかもしれません。

山中での夜明けや夕焼け、沢登りをしないとみられない滝、ヤブを漕いだ先にある天国のような湿地帯、圧倒的な威圧感の青い氷瀑、クライミング技術がなければ行けない崖・・・。

そんな素晴らしい景色に到達するまでの苦労と、楽しい仲間とのおばかエピソードの掛け算で生み出される最高の思い出。
そういった、「思い出」こそが、あの世まで持って行ける唯一の財産だな、と思うのです。

吹雪とラッセルが辛い、翌朝

翌日の天気が悪いとは、聞いてはいましたよ。
でもね、本当にひどかったんです。

朝、起きたら負けだなと思いつつ目を開けると、なんか荷物が白くなってる?と二度見しました。
どうやら荷物に雪が積もっているようです。

それもそのはず。
天井にしたタープの脇から、すきま風ならぬすき間吹雪が猛烈に吹き込んできているし、なんならタープにもどっさりと雪が積もって天井がたわんでいます。
これはいかんと、起きたら負け勝負はあきらめ、シュラフから出ました。

タープにずっしり積もった雪を取り除くと、天井は風にあおられて更にすき間が大きくなり、イグルー内も嵐となりました。
あれこれ試すもどうにもリカバリーできず、朝食も食べずに急いで撤収作業にかかります。
イグルーで宴会するだけという、ゆる山行だったはずなのに、結構厳しい。

おじさん、疲れちゃったよ。

下山も吹雪の中、激しいラッセルを強いられました。
昨日の踏み跡もラッセル跡も、完全に消え去っています。
登山口からほど近い場所で幕営していて本当によかったな、と思いつつ、行動食で空腹をごまかしつつ下山を急ぎました。

ゴンドラの駅までたどり着いたら、待ちに待ったお食事のお時間です。

Nおじさんの顔芸が冴える。

大人の雪遊びはGWでも間に合いますよ

下界ではGWと言えば、既に汗ばむ陽気ともなりますが、山の上ではまだまだ雪もかなりあります。
イグルー、雪洞、かまくら、いずれも楽しい上に宿泊料は0円なので、スコップをもって雪山へGo!

たとえば五竜であれば、リフトを降りてすぐそばの場所でも、十分に雪洞を作ることが可能です。
谷川岳や雷鳥沢もいいかもしれません。
ただ、5月になっても吹雪くことは珍しくないので、技術、経験や、装備に応じた場所を選択することが大切です。

去り行く雪の季節を惜しみつつ、春の陽光で存分に光合成をしながら飲むビール。
幸せって、そんなにお金もかからないし、身近にあるものなのでした。