トラウマを良い思い出で上書きしよう
2025年7月、私は不安と期待と共に、再びこの地を訪れました。
約1年前に経験した、あの苦い思い出・・・それをいい思い出に塗り替えよう!というNおじさんの提案を受けてのことです。
苦い思い出はこちらから
正直、不安で一杯でした。
また誰かがケガをしたり、ましてや死んでしまったらどうしようという思いが捨てきれず・・・。
しかし結論から言うと、トラウマを克服することができ、いい思い出でヘイズル沢を上書きできました。
ただ、もちろん、あの記憶を消し去ることはできないし、自戒として忘れてはならないとも思います。
駐車スペースのアクセス情報
ヘイズル沢は、ならまたダムのゲートから小至仏山へと抜ける沢です。
遡行グレードは2級。
車2台でやりくり、もしくはタクシー利用(13,000円程度らしい)で鳩待峠へ抜けた場合でも、18kmほどの距離があり、ゲートに戻ってくる周回ルートだと、30㎞近くになります。
一泊で周回している記録がありますが、かなり早朝に歩き始めないと厳しいのではないでしょうか。
ルート情報はこの本を参考にすることが多いです。
なお今回の記録は、車2台を使ったものです。
まず1台は、尾瀬第一駐車場(1日1000円)に停めておきます。
駐車場から、ならまたダムのゲート前までは、車で約1時間。
結構なスペースがあるので、満車で停められないということはなさそうです。
ゲート~入渓点は灼熱
身支度を整えて、いざ参る。
ゲートの向こうには昨年と同じく、おたまじゃくしがワイワイしていて、単純にかわいいなと思っていた昨年の記憶がよみがえります。

天気は快晴!
暑いけれども、暑くて長い道のりということを覚悟のうえで来ているからか、昨年よりラクに思えました。
そう、暑くて長いので、覚悟してください。

ひたすら2時間ほど歩くうちに、道が草に覆われ始め、こんな建物が見えたら入渓点はすぐそこ。

今回は橋を渡った先の左岸から入渓しましたが、降りられそうな場所を探せばどうにかなるでしょう。
橋から懸垂下降したっていいんだし。

いい天気で沢がキラッキラなのが、不安を和らげてくれます。

さすが「関東の赤木沢」という二つ名を持つだけのことはあります。
初日は運転疲れもあり、5時間ほどだけ遡行し、幕営地を求めました。

1日目 990m地点にて幕営
ヘイズル沢は、幕営適地とされる有名な場所が第二堰堤のあたりにあり、それ以外にいい場所はあまりないと言われていますが、沢ヤなら適地は開拓せよ!
ハンモックかタープ下でゴロ寝か、どちらがよりよいかは判定が難しいですが、ヘイズル沢ではどっこいどっこいだったかなと思います。
なんとか無理やり泊まれそうな場所を確保しつつ、宴会場を整備し、薪を集めます。
なお写真の場所は、宴会場としてのみ使用しています。
こんなに水線に近い場所で寝るのは危険ですから、やめておきましょう。

今日の寝床はこのような感じ。
地形には、寄り添っていくスタイルで。

焚火は支度が8割。
適度な長さに切り、太さ別に分別すべし。

焚火の必須アイテム達。
夜に備えて、灯りの支度も済ませておきます。
たねほおずきが、明るさ、重さ、光り具合の総合判定で優勝。
最近は充電式のたねほおずきも販売されていますが、お好みで選べばよいかと。
設置には、ちょうどいい場所に枝があれば最高ですが、なければとにかく創意工夫でなんとかします。

虫よけもぬかりなく。
各種取り揃えで結界を張ります。
気にしない人は焚火の虫よけ効果で十分ですが、それでもブヨ(ブユ、ブトとも呼ばれる)だけはきっちり忌避することをおすすめします。
あいつらにやられると、猛烈なかゆみに長期間悩まされます。

山の定番、森林香。
林業従事者が愛用するということで、がっちりマンデーで紹介されたことがあります。
最強と名高いがゆえにお値段もお高めですが、アブに絶大な効果を発揮します。
燃焼時間は5時間程度。
森林香は若干お高いので、こちらも併用しています。
成分は同じメトフルトリンですが、燃焼時間は7時間、1巻あたりの価格は新林香の3分の1程度と経済的。
より蚊がぶんぶん飛んでいそうな、タイから逆輸入されている品物です。
森林香より厚みが薄くて折れやすく、しけってフニャフニャになりやすいですが、安いので結界を張るのにはいいかなと。
寝床、焚火、結界が整ったら、おつまみ調理を開始。

Nおじさんが牛肉を青じそ風味で焼いてくれました。
牛だけど(゚д゚)ウマー。

T青年は、じゃがいもを使ったお料理を披露。
まさか彼が料理をする日が来るなんて・・・と驚愕しました。
なんたって、軽さが正義でカップラーメンは粉々にして持参し、胃の中で調理するというタイプでしたから。

なんかスパイスまで登場!
大変おいしゅうございました。

天気はいい、沢はきれい、酔いも回った。
三拍子そろったら、おはしゃぎタイムです。
靴も靴下も脱ぎ捨てて、石の上で飲む。

何を指しているのかは不明ですが、楽しそうなことには間違いない。

そして力尽きる。
人の目を気にすることなく、どこででも寝られるのも、沢のいいところです。

ヨガ?意識高い系?

意識低い系?

そうこうしてる間に、夕まずめの時間帯がやってきました。

Nおじさんは、釣竿をもってイワナと遊びにでかけました。

T青年はロックバランシングを始めました。

結構積めてる!

だいぶ日も落ちてきましたが、Nおじさんが帰ってきません。
ただでさえトラウマを抱えた沢で、より心配になってしまいますが、やがて熊鈴の音が聞こえてきました。
ああ、ちゃんと帰ってくるんだなと安心したら、T青年が言いました。
「クマにくわえられたおじさんの熊鈴だったりして」

ご飯は焚火で炊くのがこだわりらしい。
夜に炊いたり朝に炊いたり、多めに炊いて翌日のお弁当にしたり。
私はご飯をあまり食べないので、見てるだけですが、お弁当のチャーハンは美味しいですよ!

2日目 夕立に阻まれ1250m地点まで
二日目も快晴。
今夜は第二堰堤付近の、いわゆる幕営適地まで行きたいところです。

こちらの滝は右側から楽にクリアできます。

見事なナメ滝。
思うがままに登るがいい。

あじさいが美しいです。

源流はたいていキレイなものですが、渓相が明るいのがいいですね。

見ごたえがあり、かつ登れる滝がたくさん出現します。
その度に、どこから登るか協議して、クリアしてくのが楽しい。

赤木沢に似た雰囲気があります。

これは左岸から巻きましたが、どこから巻くかで結構ウロウロしました。

美しい沢のど真ん中を突っ切っていけるのが、沢登りの楽しい所。
普通なら「見るだけ」の場所に、踏み込めるのがいいのです。

こんな景色も、柵などない場所から好きなだけ近づいて、見ることができます。
もちろん、安全確保は自己責任です。

苔むしたような緑の色合いが、なんとも美しい。

暑さの中、美しい水に誘われるがままに飛び込む。

Nおじさんも大胆に飛び込み!
皆で童心に返ってゲラゲラ笑うと、何歳になっても青春ってあるのではないかと思えます。

ひとしきり遊んだら小腹が空いたので、そうめんタイムとなりました。

沢で食すそうめんは、絶品です。
いつもNおじさんが、一式かついできてくれるんですよ。
なめられちゃいけねぇんで、めんつゆはストレートを持ってきます。

踊り食いはしていません。
この沢は、やたらとおたまじゃくしがいるので、捕まえて遊びました。

腹ごしらえと、おたまじゃくし弄びを済ませたら、遡行を再開します。
相も変わらず美しい滝が続くことよ。

2段12mは、T青年がロープを持って直登。
上の段の落ち口付近が、結構いやらしかったので、ロープがあって助かりました。

昨日も今日もいい天気!と浮かれていましたが、夏の晴天につきものの、夕立がやってきました。
もう少し先に進んでおきたかったのですが、どんどん雲行きが怪しくなってきたので、何とか泊まれそうな場所を物色し、雨が弱まるまでタープの下でお茶会です。
こんなときは、あたたかくてほんのり甘いチャイが、ほっとしますね。

湿ってしまった薪を集め、焚火を試みます。
満足いくほどには燃やせませんでしたが、ケツは乾かせました。

そして夕立も去り、宴会タイムが始まります。
何のために沢に来ているかって、そりゃ飲むために決まってるでしょうよ。

枝豆は生のものを持参し、少なめの水で蒸し焼きにします。

ピーマン丸かじり?

つくねならぬ、カルパスをピーマンに詰めてみたというわけでした。

夕立に追われて急ごしらえした幕営地でも、ちゃんと宴会が楽しめて、ご飯も炊けて、ぐっすり寝られる。
そんなスキルが身に着く沢登り。

3日目 2130m地点へ~下山
翌朝、味噌汁担当T青年が、ありあわせで作ってくれました。
乾物の他に、Nおじさんが持ってきたコンビーフが余っていたので、ぶちこんでみたら美味しかった。
うすら寒い時のあたたかいお味噌汁は、身にも心にもしみる~!

この沢最大、二段20mの滝。
左側が階段状になっているので簡単に登れるといいますが、だいぶ高度感があります。
高い所が苦手なNおじさんは、多分フリーでは登れないだろうと予想し、先にロープを持って上まで登りました。
手も足もホールドは豊富ですが、フリーだとドキドキします。
ちなみにNおじさんは高い所が大変苦手ですが、体幹が強くて安定しており、渡渉で活躍します。
流されかけたところを、キャッチしてもらったこともありました。

上からのぞき込んでみる。
写真だと高さが伝わらないのが残念。
本によれば、この滝の下部から最後の堰堤(三つあります)まで1時間半、そこから登山道まで1時間半とのこと。
まあ、そんな時間では行けないだろうな。
だまされないぞ。

「あ!食虫植物!」
Nおじさんの言葉に、脳裏にウツボカズラとハエトリ草が浮かびましたが、尾瀬らしくモウセンゴケが生えていました。

第一堰堤で頭を洗う。

休憩していたら、ロープにこんなやつが。
きもっ。

これが噂の幕営適地ですね。第二堰堤を越えてすぐの所にありました。
地面は平ら、目の前は小川、タープを張る木もふんだんにあるという、天国みたいな場所です。
本当なら二日目の夜はここで幕営するはずだったのですが、夕立に阻まれて手前で幕営しました。
幕営地からここまで3時間ちょっとかかっているので、やっぱり結構遠い。
ここで幕営の一泊二日計画だと、入渓はかなり早い時間にしなければならなそうです。

清楚で可憐なウスユキソウを見て、思わずエーデルワイスを歌う。

振り向けば、ずいぶん高度が上がってきました。
遥か遠くにならまたダムが見えて、あんなに遠い所から歩いて来たのかとしみじみ感慨深い。
登山道があれば、たとえどんなに遠かろうと、歩いてさえいればたどり着くことができます。
しかし沢登りでは、時にヤブを漕ぎ、滝を越え、仲間を踏みつけて段差を越え、やれることを総動員して進んでくるのが楽しくて、来た道を振り返る時の思いも格別なんです。

本によれば、この後はガレの続く涸れ沢を上がり、ハイマツを避けながらヤブ漕ぎなしで登山道へ出るらしい。
そっか、もう滝はないんだね、などと話していたところ、Nおじさんに新しい人格が生まれました。
なんせぼかぁ滝4級だからねぇ。
滝廉太郎です( ー`дー´)キリッ
どこをどう登って、どうハイマツを避けたら登山道に出られるのかナゾ。
簡単に言うけど、現実はそんなに簡単じゃなくて、石を落とさないようにすごく気を遣う。

行けそうなところをなんとなく上がるうちに、ハイマツと石楠花の猛烈なヤブにぶちあたり、それ以上進めなくなってしまいました。
やむなくルートを取り直しますが、あまりに斜度が強くて懸垂下降で降りることになりタイムロス。
支点のハイマツがびよんびよんで、なんとも頼りない。
最後の堰堤から1時間半で登山道だったはずなんだけどなぁ。
ルートを取り直し、涸れ沢を忠実に上がっていくと、どうやら行き詰ることなく登山道まで出られそうな雰囲気です。

しかし、暑い長い辛いの三拍子でへとへと。
ほんと、この沢長いわ!
上の方は高山植物が咲き乱れているのが大変美しく、植生も北アルプスとは少し違うのが楽しかったです。
どう見てもネギ坊主の小型バージョンみたいな花が咲いていて、葉のにおいをかいでみたら、やっぱりネギでした。
後で調べたところ、どうやらあさつきではないかと思われます。

ようやく登山道へ出た、喜びの握手を交わす二人。
ここからは、時間が読めるという安心感!
鳩待峠までは、わずか1時間ちょっとです。
当初の計画よりもかなり時間を超過していたので、小至仏の山頂はすぐそこなのに完全無視。

登山道の、なんと穏やかなことよ。

ひとつ尾根を越えただけで、こんなにも見える景色が違います。

そして、とんでもないワタスゲの群生地に出会いました。
尾瀬エリアは何度も訪れた上で、そんなにたいしたことないなと密かに思っていたのですが、全力で謝るレベルでした。
すみません、なめてました。
ちなみに2025年7月23日に訪れています。

鳩待峠からの最終バスに間に合わないと、翌日の仕事に行けません。
仕事に行きたい気持ちなど毛ほどもないのですが、そこはこらえて、小走りで下山です。
なんかこじゃれた雰囲気に改装しているようだと思ったら、星野リゾートが運営する施設ができるそうな。
沢登りができないぐらい年を取ったら、こういう所に泊って、思い出話に花を咲かせるのもいいな。
それまでみんな、健康で長生きしたいものです。

トラウマになっていたヘイズル沢を、いい思い出で塗り替えられた2025年。
仲間の協力があってこそです。
本当にありがとう。