林道崩落の一之瀬川大常木谷でヤマメと遊ぶ

大常木谷とは

大常木谷は、青梅街道から飛龍山への稜線へと刻まれた沢で、一之瀬川に合流し、やがて奥多摩湖を経て多摩川へと注ぎ込みます。
泳ぎ必須の沢なので、遡行するなら暑い季節がおすすめ。
なおバス便の関係上、日帰りはできないと宗像さんは言っていますが、詳しくはこちらの本をご覧ください。

↓宗像さんの著書

その前に「飛龍山」ってどこなん?と思って地形図を見たら、雲取山(東京・埼玉・山梨の境に位置する)から西に4時間ほど歩いた先にありました。
しかし登山道まで詰め上がるよりは、途中で大常木林道を経由して竜喰谷(りゅうばみだに)へ入り、一之瀬林道へと戻る周回ルートが、車回収もできていいと思います。
足がそろったパーティーでさっさか行くのならば、日帰りも可能らしい。
2年前にそのルートを歩いた時は、行動時間で9時間半だったので、現実的な所要時間だと思います。

アクセス情報 ※林道は崩落しています

かつては一之瀬林道に車で入れたようですが、現在は徒歩ですら無理矢理な感じです。
車で入れた場合の周回距離は8.5kmですが、今は12.8kmを歩くことになる予定です。
さて、私がどうやって見つけたか記憶にない、この辺の沢に行くときの駐車スペースはこちら。

このぐらいのスペースがあり、釣りや沢登りの人が利用している様子。
ここから一之瀬林道の入り口はすぐそこ。

駐車スペースから150mほど歩けば、林道の入り口です。
2023年に訪れた際は、車は入れないものの、入口に作業員の方がいて歩行者(通るのは釣り師か沢ヤだけでしょう)を通していて、林道の保全工事をしていました。

【期間:当面の間】
って、いつになることやら。

林道入口から30分ほど歩けば沢へ降りていく分岐で、アプローチもラクラク・・・

と思ったら最初の崩落場所がこれ。
めっちゃ崩落しとるやん!
あんなに工事してたのに、自然の力というものは恐ろしい。
人間なんて自然の力の前では、ミキサーの中の豆腐みたいなものです。

ガードレールの外側に歩けるスペースがあったので、意外に楽に通過できました。

またもや荒れています。
いっそ全部燃やしたい。

結構荒れてるなぁと思いながら歩を進めていると・・・、

ファッ!?

またこりゃ、派手にいっちゃっています。
ガードレールの外側を歩いてクリア、とはいきません。
かつては林道をちょっと歩けば入渓できたのに、いや、もっと前は車で降り口までアクセスできたらしいのに、今や入渓までが一苦労。

この崩落地を目の前にして、どうしようかと見回してみれば、上の方にトラロープが張られていました。
沢ヤの仕業か釣り師の所業か、はたまたお仕事で通らざるを得ない方のものなのか。
それは不明ですが、ロープも新しいし大丈夫そうかな?と、ありがたく使わせていただきました。
で、向こう側にたどり着いたら、結び目の端っこの余りが短すぎて、ヒエッ!となりました。

ここから沢へと下ります。
「山火事防止~」と書かれている立札の場所です。
かつてはこのスペースに、車を停められたのでしょう。

ここからは、踏み跡は明瞭なものの、斜度がかなり急です。
事故も多発しているそうなので、ご注意ください。

入渓点~千苦ノ滝

高低差にして70mほど降りると、そこは一之瀬川。
雰囲気としては、普通と言うか、地味と言うか、感動するようなものではないかなと思います(

個人の感想)。
ここから少し沢を下り、大常木谷との出合を目指します。

来るときに越えてきた崩落個所を、下から見た図。
派手に崩れています。

大常木谷は非常に深い谷底にあり、なんか暗い雰囲気です。
あまりキラキラした沢ではなく、そんなにテンションが上がるような感じではありません(あくまで個人の感想)。

倒木を利用して登ることもできるようですが、右から巻きました。

巻いた後、上からのぞき込むとこうなっています。

ゴルジュ帯に入ります。
遡行図によれば、ここから千苦ノ滝までゴルジュが続く。

五間の滝8m。
水流の右側を容易に登れますが、取り付きまではへつりと泳ぎを交えます。
今回は水量が少なく、ほとんど泳がずにすみました。

しばらくゴルジュが続くので、結構深い淵が出てきます。
落ちてもどうということはないのですが、やっぱり落ちたくはない。
そんな私の背後でふざける輩が一名。

出ました、千苦の滝25m。
このルート最大の滝で、左岸から踏み跡に従って高巻きます。

高巻いているところを上から見た様子。
急な斜面をつづら折りに上がっていきますが、足元は結構しっかりしているので、さほど不安はありません。
ただ、かなり高度感があるのと、かつて死亡事故も何度か起きているということなので、慎重に。

幕営好適地は豊富

千苦の滝を越えてしばらく行くと、渓相が穏やかになり、これでもかと言わんばかりの幕営好適地が出てきました。
本当は会所小屋跡付近で幕営し、翌日は竜喰谷を下降する予定でいたのですが、あまりにも魅力的すぎて誘惑に負け、もうここで泊まって明日は同ルートを下降しよう!となりました。

「計画を完遂する」ことにのみ焦点を当ててしまうと、それまでのことが「ゴール」に属するものになってしまいます。
途中、魚がたくさんいる支流を見つけて釣りをしたくなっても、やたらきれいな場所を見つけても、今回のように素敵な幕営地を見つけても、決まった時間までにある地点に到達することを優先するならば、通り過ぎるしかありません。
それはすなわち、現在、今この瞬間が、未来の計画に従属してしまうことを意味します。
私は常に、かけがえのない今という瞬間を大切にしたいのです。

って、単に早く飲みたいだけ。

せせらぎビューの、めっちゃいい場所にハンモックを設営!
沢の中は木がたくさんあるように見えて、意外にベストな場所を見出すのは難しいんです。

もう気分は成功者。
着衣が破れていても、関係ない。

Nおじさんにも、成功者の気分を味わっていただきました。

付近にはこんなおしゃれなオブジェも。

お供えしてみる。

宴会場は流れのそばに設けがち。

定番、森林香。

そして焚火と調理を開始。
このために沢に来ているんです。

豪華な山メシと、釣ったヤマメの塩焼きと

ワタクシの本日のメニューは、プチトマトの豚バラまきバジル風味。
トマトとバジルは、我が家の畑で収穫したものです。
畑って、大変だけど楽しいよ。

T青年は枝豆を蒸し焼きにしています。
エバニューのフライパンが、こんな使い方をされるはずではなかったと、無言の悲鳴を上げているようです。

木洩れ日が美しい森の中を、焚火の煙が流れていく様を見るひと時は、なんとも言えない充足感に満ちています。

そうこうしているうちに、渓流魚と遊びに行ったNおじさんが帰ってきました。

ヤマメがいっぱい釣れた!とホクホク。

処刑のお時間。

いつもイワナなので、なんか新鮮です。
あまりに小さい子は、リリースしました。
それにしても渓流魚って、なぜにこれほどカワイイのだろうかと思います。

渓流釣りの釣果の食し方は、刺身とか天ぷらとかをやった結果、結局塩焼きに落ち着いています。
さばくのが面倒くさいし、天ぷらは持参するものも多くなるので、塩焼きが簡単かつ美味しく、余すところなく頂けるのが良き。

チタンのゴトクと100均の網がコラボし、いい仕事をしました。

Nおじさんも帰ってきたことだし、おつまみクッキングも加速します。
じゃがいもとローズマリーは、とても素敵なコンビネーション。

T青年はなんと、ローストビーフを調理!
焚火であぶられるとは思っていなかったエバニューも、こうなりゃもう大往生でしょう。
軽くていいフライパンで、アウトドアでの調理の幅が広がりますよ。

何がすごいって、ローストビーフを焼くだけじゃなくて、ベビーリーフのトッピングがある上に、バルサミコ酢とフレッシュレモンを搾って「ハイ召し上がれ」とか、あなたついこの間まで料理しない人でしたよね???と、驚きと感嘆と美味しさでお祭り騒ぎです。
大常木谷も、「バルサミコ酢?何それ???」と、初耳だったことでしょう。

Nおじさんは鶏肉をこんがり焼いてくれました。

カットした後に、直火炙りで香ばしさが際立つ。
鶏・豚・牛・ヤマメのフルコースという、なんともゴージャスな沢の夜となりました。

楽しい仲間と一緒に、沢と焚火と酒と肴と。
これ以上に何を望みますか?

って、金は欲しいな、やっぱり。
正確には、金の向こうにある、自由がほしい。

翌朝、味噌汁担当T青年が台所(?)に立ちます。

今日は豆腐の赤だし。
お味噌汁って、こんなに美味しかったっけ?
千昌夫の歌が脳裏をよぎる。

味噌はこれを持ってきていました。
これなら軽量でいいですね!

山女淵は泳ぎ必須

山女魚淵まですぐそこだったので、下山前に立ち寄りました。
ここは泳ぎで突破しなければならず、過去にご夫婦が亡くなっている場所です。
足が付かない淵に入っていくのって、なんだか吸い込まれそうで怖いんですよね。
死亡事故があった場所だと思うと、なおさらです。

しかし今回は水が少なくて、びっくりするほどしょぼくなっていました。
写真で見ると歩いて突破できそうに見えるほどです。
とはいえ、そう見えるだけで、やっぱり足が付かないほど深くて不気味な印象があります。

このように、泳ぎが必要になる場面が多い沢なので、ライフジャケットを装備した方が安心です。
Nおじさんは浮力高めのライジャケを装備しており、

「ライジャケで浮くのと会社で浮くのと、どっちが浮くか」

と、相変わらずのNおじ節でした。

さ、淵ものぞいたことだし、帰ろっと。

大常木谷下降

沢は登るよりも、降りる方がミスりやすいです。
高度感あふれる高巻きだった千苦の滝を降るのは、なかなかに危なそうです。

下降は危険と判断し、コンテをつないで先行しました。
私は一応、ロープを使う登山技術について、一年間のカリキュラムを修了しておりますので、いい感じに中間支点を設置して安全に降りてこられました。

ロープの使い方など知らなかった頃、コンテをつないでいる(ロープでパーティーがつながって歩いている)画像を見て、

「これだと一人が落ちたら、皆が巻き込まれるのでは?」

と思ったものですが、まさにその通りで、正しいコンテを知らずにロープをつなぐと余計に危険を増しますので、正しい運用をきちんと学びましょう。

お金をかけたくない?
あなたの命はお金に代えられないと思いますよ。

下りながら眺めた、千苦の滝。
大常木谷は「深山幽谷」と表現されることが多いですが、まさに言い得て妙。

巻き道の下部は中間支点を取ることができなかったため、安全のために途中から懸垂下降しました。
いのちだいじに。

谷底にいることを実感させる絶壁。

滑りやすい沢を慎重に降りていきます。

途中のへつりで、T青年が鍵フック状の形をした枝を見つけ、うまい感じにクリアしようとしましたが、枝はぽきっと折れて見事にドボン。
全員大爆笑した、今回の沢のハイライトでした。

行きでへつった淵を、流れに乗って泳いで戻る。

今回、浮き輪を使ってみましたが、小さすぎて頼りなかったです。
ちなみに浮き輪は安全対策になりませんので、お遊びです。

登るのは容易だった五間ノ滝も、降りるにはロープが必要です。
しかし、滝の落ち口付近に、ちょうどいい木が生えているとは限らないのが常なのですよ。

ところが、ちょっと落ち口から周囲をのぞき込んでみたところ、こんな支点が。
登る時には気づきませんでしたが、初心者が登る際に使われているのかもしれません。

残置支点がどれほど信用できるのかと言えば、信用しない方が身のためと思います。
と言っても、使わざるを得なかったり、自分で新設する時間や手間と比較したり、判断はご自身でしなければなりません。

って、結局、使ってもいいのかダメなのか、どっちなんだーい!!!

となるでしょうが、これはきちんとした人や組織から指導を受けつつ、経験を積むべきです。
なんといっても、命がかかっていることなので、

「試してみたらダメだったから、次!」

とはいかないんです。

懸垂下降で無難にクリアしました。

昨日、入渓した時と雰囲気が違って、明るくていい雰囲気です。
時間帯によって雰囲気かなりが異なりますから、何時にどこを通過するか、地形図を見ながらあれこれ考えるのも楽しいのです。

そして脱渓して、崩落地へ戻りました。

ここが一番危険なんじゃないか!?
帰りはロープを出しました。

この穴は、偶然開いたのか?
それとも突破したい人が切り開いたのか?
いずれにせよ、ちょうどよい。

そして最初の崩落地を越えて、車を停めた場所へ戻りました。