50m懸垂下降 妙義山バリエーションルート 星穴岳

星穴岳とは

驚くほどギザギザな妙義山界隈には、多数の人気バリエーションルート(登山道ではないルート)があります。
その中のひとつ「星穴岳」は、中之獄神社から西岳を経由するルートであればクライミンググレードも高くなく、全行程がコンパクトでありつつも懸垂下降技術を必須とする、なかなかに面白いルートです。
ルート中、最低3ヶ所は懸垂下降をすることになり、ロープは50mを2本必要とします。
バリエーションルートとしての難易度は高くありませんが、必要な装備や技術がなければ踏破することはできません。

入山口

集合場所は、県立妙義公園第一駐車場(トイレあり)です。
夜間は閉鎖されるようなので、車中泊ならびにド早朝からの駐車はできなさそう。


駐車場でハーネス、ヘルメットを装着し、お仕度をします。
今回は2025年6月4日の山行、パーティーはNおじさんとT青年の3人です。

ギザギザの異様なリッジラインを見つつ、

「うーん、こわい、こわいなー」

と、猿芝居でNおじさんの気持ちを代弁するT青年。
集合早々に茶番劇を繰り広げ、行ってまいります!

駐車場すぐそばの、中之獄神社からスタートです。
日本一の大黒様がウリらしい。

右手の、急傾斜階段を上る所からスタートですが、さっそく息切れします。

登り切った場所にある神社で安全祈願の後、右側を抜けて、「見晴台」への登山道へ進みましょう。

途中、しつこいほど注意喚起の看板があります。
過去に多数の事故があったからでしょう。
ちなみに北アルプスのとある場所には、「アビナイヨ」という、緊張感ある場所に緊張感がないメッセージがあります。

しばし普通の登山道を進みます。
時は6月上旬、西上州名物のヒルが寄ってくるので油断なりません。

バリエーションルートは立ち入り禁止をくぐりがち

これをくぐって、進みます。
立ち入り禁止とか、この先は登山道にあらずとか、なんかそんな感じのことが書かれていた気が。
バリエーションをやっているとこういうところに立ち入ることが多いですが、初めてこの境界線を越えたときは、「向こう側」の世界に足を踏み入れるようで、非常にワクワクドキドキしたものです。

西上州の山並み。
結構色々なバリエーションルートに行きましたが、なぜか印象が薄くてほとんど覚えていません。

ロープを使うのは久々で、だいぶからまってしまいました。
ロープを使う登山の場合、からまったロープをさばくのに時間がかかってしまうことがあります。
確保理論もロープワークも大切なんですが、これをいかに防ぐかも、かなり重要です。

なぜこうなった。

両端が切れ落ちたリッジを下る。
高度感があって、緊張する場面です。

ひとまず西岳のピークにやってきました。

一本目の懸垂下降。
懸垂下降が必要な場所には、いずれも立派な支点が設置されています。

きわどいトラバースもあります。
草木が茂っていて高度感がなさげに見えますが、ここも落ちたらただでは済まない場所。
慎重にロープを出して進みます。

Nおじさん、こわいけどがんばる。

崖の途中に申し訳についたような踏み跡をたどり、山頂を目指します。

バリエーションは行けそうなところを行きがち

が、行き止まりに突き当たってしまい、どこからピークを目指すのかとウロウロしているうちに、下を見下ろせば見覚えのある射抜き穴と呼ばれる場所が。
というわけで、無理くりに行き止まりの端っこから懸垂下降で射抜き穴に降り立ちました。
本当は、山頂付近に懸垂の支点があって、そこから空中懸垂でこの場所に降りてくるのですが、二度も来たくせに記憶になかったものですから・・・。

この崖の上から懸垂してきたわけですが、いざロープを回収しようと引いてみると、引けない!!!
途中の岩の張り出しによる摩擦のせいか、どうにもロープを回収できないのです。
これは登り返して対処せねば、となるものの、登り返したとてロープ回収できるような支点が得られるのかという疑問が残ります。

うーん、どこか上に上がれる所ないかな、と見て回るも全く手掛かりなし。
後から思えば、あるわけないんです。
ここは星穴岳のハイライトとも言うべき、空中懸垂で降りてきて、また懸垂下降で降りていく場所なのです。

とりあえず登り返すことにしようとなったものの、この高さを登り返すのは結構しんどい。
というわけで、一番体力があるT青年に白羽の矢が立ちました。
T青年に与えられたミッション、それは、

「木にまたがせただけのロープを、スリングとカラビナを残置することにはなるが、ロープを回収しやすいように摩擦少なめの支点に構築し直す」

こと。

だいぶ登り返したね、ガンバ!

登り返しは若い者にまかせて、たばこを吸うNおじさん。

バリエーションはトラブル発生しがち

無事ミッションを終えて戻ってきたT青年。
さて、ロープは回収できるのか!?

ロープを引いてみるものの、あれ?引けない?

ここから降りるには懸垂下降するしかなく、しかもその長さは50mロープが2本必要。
今、手元にある部分だけでロープを切断して懸垂下降を試みるか、再度登り返して支点を再構築するか、どうすべき?
もう一度登り返すにしたって、誰が?
となると、誰もT青年と目を合わせようとしませんでした(笑)

結局、力を合わせて引いてみたら、どうにかロープを回収できたので事なきを得ました。
一時はどうなることかと思いましたが、どうやらおうちに帰れそうです。

ロープが引けなかった瞬間、持っているおにぎりを食い延ばそうとか、明日の仕事はあきらめだなとか、ここでこんな理由で救助されたら恥ずかしいなとか、それぞれに思うところがありましたが、全て笑い話になってよかったです。

無事に回収したロープで懸垂下降したら、あまりはこれだけしかなかったので、ロープを切っていたら足りなかったなと再確認。
そして今回のロープは緑と赤でしたが、あわやと思った時に引けたロープが緑だったため、今度から懸垂は緑引きでやろう!というゲン担ぎが生まれました。
そしてT青年の登り返しを、会社の会議でヒーローとして話題にするとNおじさんが熱弁していました。

あれだけ高い所から懸垂下降してくるのですが、かつて持参ロープの長さが足りない上に、墜落して救助されたパーティーもいたそうな。
防ぎきれない事故というものはありますが、準備不足、技術不足はいけません。
登れないなら降りてはいけないし、降りられないなら登ってはいけないのです。

無事に帰れそうだ

これで懸垂下降が必要な場所は全て終わったので、後は歩いて下山するだけ。
とはいえ登山道ではないので、足場がよくない場所も多々あります。
こわいよーと降りるNおじさんを、あざ笑うT青年。

Nおじさん「俺は真剣なの!」

そして際どい所を降り切ったら、
「たいしたことねぇなぁ!」
と吐き捨てることも忘れません。

 
里美
地形図によると、そろそろ勾配が緩くなりそうだよ!
 
Nおじ
じゃあ行こうばい!

古典は大事にするNおじさんです。

※古典=古典落語から転じて、ただのオヤジギャグ。

ようやく、神社に戻ってきました。
山行の無事を感謝します。

そして長い石段を下ります。
ここで落ちたら笑えないね。

「なんか俺だけ妙に汚れてない!?」
とはNおじさんの談。

そしてヒルが付いていないかを互いに確認しあいました。
ヒルは絶対にお持ち帰りしたくない。

沢にはちょっと早いし、たまにはこういう崖メインもよかろうと提案した星穴岳。
三度も行っていればルートを覚えていると思ったものの、もはや4年近く経過していると覚えていないものでした。
その分、新鮮な気持ちでルートファインディングを楽しむこともでき、T青年も大変気に入ってくれたとのこと。
次回はヒルがいない季節に、山頂をちゃんと踏むべく再訪もいいかなと思いました。

今回の所要時間は、ウロウロとルートファインディングしつつ休憩含めてで8時間40分。
以前にルートを覚えていた状態で行ったときは、轟岩で遊ぶ時間も含めて7時間ちょっとでした。
総じて踏み跡も分かりやすく、クライミングシューズを必要とするような登攀もありません。
経験者同伴であればよいですが、懸垂下降を覚えたてのパーティーで、「空中懸垂やろうぜ!」みたいなノリはやめたほうがいいでしょう。