「……。」
「…………。」
「………………いや、まだ?」
全員が黙っている。
手元のカードを見つめ、隣の人の顔をちらりとうかがい、またカードに視線を落とす。
誰もしゃべっていないのに、なぜか全員の考えていることが気になる。
――今、出すつもり?
――いや、まだ早い?
――えっ、まさか、その数字なの?
そして、ついに誰かがカードを出した瞬間。
「いやいやいや! なんで今それ出すんだよ!」
「えっ、そっちが持ってたの!?」
「ちょっと待って、絶対もっと早く出せたでしょ!」
さっきまでの静けさはどこへやら。
そんな騒ぎが巻き起こるのが、カードゲーム『ザ・マインド』です。
ルールは簡単。でも、思いどおりにはいかない。
ザ・マインドは、プレイヤー全員で協力してクリアを目指すカードゲーム。
手札には、1から100までの数字が書かれたカードが配られます。
やることは簡単。
全員のカードを、小さい数字から順番に出していく。
ただし、とんでもない制約があります。
相談禁止。会話禁止。合図もなし。
自分の手札を見せることもできません。
つまり、ほかの人がどんな数字を持っているのか、いつカードを出そうとしているのか、まったくわからないのです。
それなのに、誰かがカードを出したら、ほかのプレイヤーは自分のカードと数字を見比べなければなりません。
もし、ほかの人が持っている小さい数字を飛ばしてしまったら、ライフを失います。
たとえば、自分の手札が「42」。
そろそろ出してもいいかな……と思っていたところで、誰かが「37」を出す。
「あっ、そっちが先だったか!」
まあ、これは仕方がないかもしれない。
問題は、みんなが黙り込んだまま、いつまでたってもカードを出さないとき。
(え、みんな何を持ってるの?)
(もしかして、私が一番小さい?)
(いや、でも、さっきから誰も動かないってことは……)
考えれば考えるほど、出すタイミングがわからなくなってくるのです。

そして始まる、無言の心理戦。
このゲームの面白いところは、相手の手札が見えないことだけではありません。
一緒に遊んでいる仲間の性格まで、なんとなく見えてくるところです。
慎重な人は、なかなかカードを出さない。
思い切りのいい人は、「もういいだろう!」とばかりにカードを出す。
そして、誰かがカードを出した瞬間、全員の視線がその数字に集まる。
「……え、そこ?」
口には出せないけれど、たぶん全員、同じことを考えています。
もちろん、相手の性格がわかったところで、手札の数字がわかるわけではありません。
長年の付き合いがあろうが、気心の知れた仲間だろうが、そこは容赦なし。
むしろ、仲がいいからこそ遠慮がなくなる。
誰かが大きな数字を早々に出してしまえば、
「おいおい、ちょっと待て!」
と、罵倒合戦すら始まります。
うまくいったときの、妙な一体感。
ところが、不思議なことに。
何度か遊んでいると、驚くほど息が合う瞬間があります。
誰も相談していないのに、絶妙なタイミングでカードが出てくる。
「え、今の完璧じゃない?」
「すごくない? なんでわかったの?」
いや、わかったわけではないのです。
たまたまかもしれないし、相手の様子から何かを感じ取ったのかもしれない。
それでも、全員で順番どおりにカードを出し切れたときには、ちょっとした達成感があります。
自分ひとりの判断が正しかった、という話ではありません。
全員がそれぞれのタイミングを見計らい、誰かが少し待ち、誰かが思い切って動き、結果としてうまくいった。
その感覚が、なんとも気持ちいい。
逆に、あと一枚というところで失敗したときの悔しさといったら!
「いや、今のは惜しかった!」
「もう一回! 今度こそいける!」
こうして、また次のゲームが始まるわけです。
静かなゲームなのに、なぜこんなに笑えるのか。
ザ・マインドは、派手な演出も、複雑な戦略も必要ありません。
必要なのは、数字の書かれたカードと、一緒に遊ぶ仲間。
それだけなのに、沈黙の時間には妙な緊張感があり、誰かがカードを出せば一喜一憂し、失敗すれば大騒ぎ。
会話を禁止されているからこそ、カードを出すという小さな行動に、あれこれ想像を膨らませてしまうのです。
「今、出すの?」
「いや、まだでしょ?」
「ちょっと、なんで今なのよ!」
そんな会話を本当はしたくてたまらないのに、ゲーム中は黙っていなければならない。
そして、ラウンドが終わった途端に、たまっていた言葉が一気に飛び出す。
この落差もまた、面白いところ。
気の置けない仲間と遊べば、失敗しても笑い飛ばせるし、うまくいけば一緒に喜べる。
みんなで協力するゲームなのに、なぜかお互いにツッコミを入れたくなる。
そんな不思議な魅力を持ったカードゲームです。
次に集まったときは、ぜひ一度、全員で黙り込んでみてください。
……たぶん、思っている以上にうるさいゲームになりますよ。